ということで三章のサンプルです~!
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「ナーサティヤ!」
「っ……!無闇矢鱈に抱きつくなと何度も言っているだろう!」
彼の顔を見るなり、嬉しそうに笑ったかと思えば、こちらに駆け寄り、抱きついてきたというよりは体当たりしてきたような勢いの少女を、ナーサティヤは無理矢理に引っぺがす。
と、自然と溜息が零れた。
「……お前は、私の言う事を聞くと言う考えはないのか?」
「そんなことないわ……!でも……」
それきり、口籠ってしまった少女に、ナーサティヤは溜息を一つ漏らすと、彼女の目線の高さに合わせてしゃがみ込んだ。
「でも……なんだと言うのだ?」
じっとこちらを見据える彼の碧い瞳が、理由を言うまで逃しはせぬと無言で言っているようで、千尋は何となく居心地が悪い気がして視線を宙に彷徨わせた。
本人を目の前にして、何と言えばいいのだろう。
そんなことを思いつつ、これ以上黙っていても仕方ないのだと、諦めにも似た溜息を漏らした。
「……だって……久しぶりに会えたから嬉しくて……」
もごもごと小声で呟く少女に、ナーサティヤは虚をつかれたような表情になる。
少女の口から出た言葉が彼にとっては意外なもので、一瞬理解することができなかった。
「それだけのことで、か……?」
「それだけって……!もう!前に会ったのいつだと思ってるの?一月も前なのよ!」
そう、彼が東方の情勢を見に行くのだと言って出掛けてから早一月。
すぐに帰ってくるのだと思っていたのに、いつまでたっても帰ってこない。
たまに宮に変わりはないかと彼の部下のエイカが帰ってくることはあったけれど、彼本人はこの一月、ずっと姿を見せていなかったのだ。
「もしかして何かあったんじゃないか、とか……すごーくすごく心配したのに……ナーサティヤの馬鹿……!」
そう言っている間にも、少女の大きな瞳から涙が溢れ始め、ぽろぽろと零れ落ちていく。
―――誰かが自分の身をこんなにも案じてくれるということ。
そのことが、彼にとってはとても新鮮なことであり、胸にぽっと灯りが灯ったような、そんな心地良ささえ感じた。
それは今までに感じた事が無いような感情で、少し戸惑うのだが、このじんわりと広がっていく温かさは、妙に悪い気はしなかった。
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↑今回の本の導入部分ですね☆
この辺が一番スキンシップしてたかもしれないという(笑)
本編はいたってシリアス路線に進行してますが、おまけSSの方はあまーくを目指してます~
つか、幼い千尋ちゃん相手のSSだと、どうにも犯罪の香りがするという(笑) PR