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「中つ国は……負けたの……?」
「あぁ……」
「でも、あなたは私を助けてくれたのね。……ありがとう」
そう言って、丁寧に頭を垂れると、少女は少しだけ微笑んだ。
その様子が逆に居た堪れなくて、胸が痛んだ。
「さて……二の姫も目を覚ました事だし、感動の再会を邪魔するのも悪いからな。俺は帰るぜ、サティ」
そんな二人の様子を見ていたアシュヴィンは、そっと立ち上がると扉の方へと歩を進める。
そこまで来たところで、思いだしたようにこちらを振り返った。
「二の姫、受け取れ!」
「えっ?」
そっと彼の手から投げられた物は、弧を描いて少女の掌の中にすっぽりと納まる。
きょとんとしている少女に、アシュヴィンは人懐っこい笑みを浮かべた。
「俺の部下のリブが作った茶菓子だ。甘い物は人を笑顔にするというからな。……元気が出たら、いつでも俺のところに遊びに来いよ」
それだけ言うと、彼は扉を開けた。
遠ざかっていく足音がほとんど聞こえなくなった頃、二の姫は視線を扉から掌の中の包みに移す。
彼女の小さな掌と同じくらいのその包みは、綺羅綺羅としてとても綺麗だった。
「……今の人は……?」
「私の弟のアシュヴィンだ」
「そう……優しい人ね……」
包みをそっと開くと、中には丸いお菓子が入っていた。
半分に割ると、中には蓮の実の餡が詰まっている。
少しだけ千切って口に運ぶと、ほんのりとした甘味が口いっぱいに広がった。
「…………甘い……」
ぽつりと漏らされた言葉は、とても小さく弱々しくて―――
ナーサティヤはそっと手を伸ばすと、彼女の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「……泣くのを我慢するな。王族は民の前では決して涙を見せてはいけないが、今ここには私しかいない。……私は、お前の民ではないからな」
その言葉に、今までずっと耐えていたものが、堰を切ったように溢れ出す。
瞳からは大粒の涙が、はらはらと零れた。
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↑なんかこういう雰囲気ですね。
これ、一章ですけども、一章は結構真面目路線です。
二章はもっとほのぼのいきたいんですけどね~
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